作物の収量と品質を向上させるために欠かせない土づくり。その中でも「苦土石灰(くどせっかい)の撒き方」について、正しい知識はお持ちでしょうか。
ただ撒けば良いというものではなく、適切な量やタイミング、そして何に効くのかを理解することが重要です。特に、堆肥どちらが先かといった施用の順番を間違えると、効果が半減してしまうこともあります。また、苦土石灰の撒きすぎは土壌に悪影響を及ぼすリスクがあり、そもそも苦土石灰が必要ない野菜も存在します。
この記事では、プロの農家が実践する、科学的根拠に基づいた苦土石灰の正しい撒き方を徹底的に解説します。
- 苦土石灰の正しい散布手順とタイミング
- 土壌や作物に応じた適切な使用量
- 堆肥や肥料と併用する際の注意点
- 撒きすぎなどの失敗を防ぐための知識
基本となる苦土石灰の撒き方と手順
- そもそも苦土石灰は何に効くのか
- 土壌診断で適切な量を把握する
- 苦土石灰と堆肥どちらが先か
- 苦土石灰と堆肥を一緒に混ぜるのはNG
- 撒いてからすぐ植えるのは避けるべき理由
そもそも苦土石灰は何に効くのか

苦土石灰(くどせっかい)が土壌に与える効果は、大きく分けて2つあります。それは、「酸性土壌の中和」と「カルシウム・マグネシウムの補給」です。
日本の土壌は雨が多いため、何もしないと自然に酸性に傾きがちです。多くの作物は弱酸性から中性の土壌(pH5.5〜6.5)を好むため、酸性が強すぎると生育不良の原因となります。苦土石灰はアルカリ性の資材であり、これを土壌に施用することで、酸性に傾いた土壌を作物が育ちやすい適切なpHへと調整する働きがあります。
もう一つの重要な役割が、栄養分の補給です。「苦土」とはマグネシウム、「石灰」とはカルシウムを指します。これらは、作物の生育に欠かせない「中量要素」と呼ばれる栄養素です。
カルシウム(石灰)の働き
カルシウムは、植物の細胞壁を丈夫にする重要な成分です。細胞が強くなることで、作物の構造がしっかりとし、病気への抵抗力も高まります。また、根の成長を促進する効果もあり、健全な初期生育には欠かせません。トマトの尻腐れ病やキャベツの芯腐れといった生理障害は、カルシウム不足が原因で起こることが知られています。
マグネシウム(苦土)の働き
マグネシウムは、植物が光合成を行うために不可欠な「葉緑素(クロロフィル)」の中心的な構成成分です。マグネシウムが不足すると、葉緑素を十分に作れなくなり、葉の色が黄色くなるなどの症状が現れ、光合成の効率が低下します。結果として、糖やデンプンの生産が減り、収量や品質に直接影響をおよぼします。
このように、苦土石灰は土壌のpHを改善する土壌改良効果と、作物に必須の栄養素を供給する肥料効果を併せ持つ、非常に優れた資材と言えます。
土壌診断で適切な量を把握する

苦土石灰を施用する上で最も重要なことは、感覚で撒くのではなく、必ず事前に土壌の酸度(pH)を測定し、適切な量を把握することです。
量が少なすぎれば酸度調整の効果は不十分ですし、逆に多すぎると土壌がアルカリ性に傾きすぎてしまい、さまざまな弊害を引き起こします。正確な施用量を決めるためにも、土壌診断は不可欠な作業です。
土壌のpHは、市販の土壌酸度計や測定キットを使えば簡単に調べられます。測定したpH値をもとに、目標とするpH(多くの野菜で6.0〜6.5)に調整するために必要な苦土石灰の量を決定します。
一般的な目安として、pHを1.0上げるために必要な苦土石灰の量は、1平方メートルあたり100g〜200gとされていますが、これは土壌の種類によって大きく異なります。
特に土壌ごとの緩衝能(pHの変化に対する抵抗力)の違いは重要です。例えば、火山灰を母材とする黒ボク土は保肥力が高い分、pHが変化しにくいため、砂質土よりも多くの石灰が必要になります。
土質ごとの施用量目安(10aあたり)
JA全農の「土壌診断なるほどガイド」などを参考に、ご自身の圃場の土質に合わせた施用量を心がけてください。
土質の種類 | pHを1.0上げるのに必要な苦土石灰の量(目安) |
---|---|
砂質土 | 90~140kg |
沖積土・洪積土 | 170~210kg |
黒ボク土 | 280~380kg |
毎年同じように施用するのではなく、定期的に土壌診断を行い、その結果に基づいて施用量を調整することが、安定した収量を実現するための鍵となります。
苦土石灰と堆肥どちらが先か

土づくりの際、苦土石灰と堆肥の両方を使用することは多いですが、その施用順序は非常に重要です。結論から言うと、必ず苦土石灰を先に撒き、土とよく混和した後に期間を空けてから堆肥を施用してください。
なぜなら、苦土石灰と堆肥(特に鶏ふんなどの窒素成分を多く含むもの)を同時に混ぜると、化学反応が起きてしまうからです。
理想的な手順は以下の通りです。
- 作付けの2〜3週間前:苦土石灰を圃場全体に均一に散布し、耕運機やクワで深さ20〜30cmまでしっかりと土と混ぜ合わせます。
- 作付けの1〜2週間前:堆肥や元肥を施用し、再度土とよく混ぜ合わせます。
この手順を守ることで、それぞれの資材が持つ効果を最大限に引き出すことができます。苦土石灰が土壌の酸度を調整し、その後に入れる堆肥が土壌の物理性や生物性を改善するという、理想的な土づくりが可能になります。
施用の順番: ① 苦土石灰 →(1週間以上空ける)→ ② 堆肥・元肥
苦土石灰と堆肥を一緒に混ぜるのはNG

前述の通り、苦土石灰と堆肥や窒素肥料を同時に混ぜることは避けるべきです。これは、「アンモニアガス」が発生し、重要な肥料成分である窒素が失われてしまうためです。
もう少し詳しく説明すると、苦土石灰のアルカリ成分が、堆肥や肥料に含まれるアンモニウム態窒素と化学反応を起こします。この反応によって、アンモニウム態窒素はアンモニアガス(NH₃)に変化して空気中に揮発してしまうのです。これを「アンモニア揮散」と呼びます。
同時施用によるデメリット
- 肥料効果の低下:せっかく投入した窒素成分が無駄になり、作物の生育に必要な栄養が不足します。
- コストの無駄:高価な肥料代が無駄になってしまいます。
- 生育障害のリスク:発生したガスが土壌中に滞留すると、作物の根を傷める原因にもなり得ます。
特に、消石灰のような反応性の高い石灰資材と、鶏ふんのようなアンモニウム態窒素を多く含む堆肥を混ぜた場合は、顕著なガス発生が見られます。苦土石灰は反応が比較的緩やかですが、リスクを避けるためにも、最低でも1週間、理想的には2週間は施用の間隔を空けることを徹底してください。
このルールは、土づくりの基本中の基本として覚えておく必要があります。
撒いてからすぐ植えるのは避けるべき理由

苦土石灰を撒いた後、すぐに作物の植え付け(播種や定植)を行ってはいけません。これは、苦土石灰が土壌中で効果を発揮するまでに時間がかかる「緩効性」の資材であるためです。
苦土石灰を撒いてから効果が安定するまでには、一般的に1〜2週間程度の期間が必要とされています。この期間に、苦土石灰のアルカリ成分が土壌の水分と反応し、ゆっくりと溶け出して土の酸性を中和していきます。
もし散布後すぐに植え付けを行うと、以下のような問題が起こる可能性があります。
- pHが未調整のままで生育が始まる:作物は、酸性が十分に改善されていない土壌で生育をスタートすることになり、初期生育が阻害される恐れがあります。根の伸長が悪くなったり、養分の吸収がうまくいかなかったりするのです。
- 急激な環境変化によるストレス:植え付け後に土壌のpHが大きく変動すると、作物にとってストレスとなり、活着が悪くなることがあります。
消石灰と違って苦土石灰はアルカリ性が弱いため、すぐに植えても根が焼けるような直接的な害は出にくいです。しかし、本来期待していた土壌改良効果が得られないまま栽培を始めることになるため、計画通りの生育が見込めなくなります。
作物が最高のスタートを切れるように、必ず作付けの2〜3週間前に施用を済ませ、土になじませる期間を設けることが、安定生産への第一歩です。

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収量を左右する苦土石灰の撒き方の注意点
- 苦土石灰の撒きすぎが招くリスク
- 作付け後に後から巻くのは可能か
- 苦土石灰の追肥は効果があるのか
- 苦土石灰が必要ない野菜一覧
- プランター栽培での注意点
- 収量UPを目指す苦土石灰の撒き方まとめ
苦土石灰の撒きすぎが招くリスク

「土壌に良いものだから」と苦土石灰(くどせっかい)を過剰に施用してしまうと、かえって作物の生育に深刻な悪影響をおよぼします。主なリスクは「土壌の強アルカリ化」と「土壌の物理性悪化」の2点です。
苦土石灰を撒きすぎると、土壌のpHが適正範囲(pH5.5〜6.5)を超えて、強アルカリ性に傾いてしまいます。土壌がアルカリ性になると、鉄、マンガン、ホウ素、亜鉛といった「微量要素」が水に溶けにくい形に変化し、作物が根から吸収できなくなります。
これにより、新芽が出ない、葉が白っぽくなるなどの欠乏症状が現れ、生育が著しく悪化します。一度アルカリ性に傾いた土壌を酸性に戻すのは非常に困難であり、長期にわたって収量低下に悩まされることになります。
石灰成分が過剰になると、土の粒子が固まり、いわゆる「カチカチ」の状態になることがあります。土が硬くなると、通気性や水はけが悪化し、作物の根が十分に張ることができません。根張りが悪いと、水分や養分の吸収効率が落ち、地上部の生育も悪くなります。
苦土石灰の過剰施用は、良かれと思ってやったことが逆効果になる典型例です。必ず土壌診断で現状を把握し、必要な量だけを的確に施用することを徹底しましょう。
作付け後に後から巻くのは可能か

作物を植え付けた後に、「酸度調整を忘れていた」「カルシウムやマグネシウムが不足しているかもしれない」といった理由で、苦土石灰を後から撒くことは基本的に推奨されません。
生育中の作物の株元などに苦土石灰を撒き、土と混ぜ込もうとすると、作物の根を物理的に傷つけてしまうリスクが非常に高いです。根が傷つくと、そこから病原菌が侵入したり、水分や養分の吸収能力が低下したりして、生育に大きなダメージを与えてしまいます。
また、苦土石灰は土としっかり混和して初めて効果を発揮する資材です。土の表面に撒いただけでは、土壌全体のpHを均一に改善することはできません。
例外的な使い方
例外として、マグネシウム欠乏の応急処置として、土壌表面に少量を散布するという方法もあります。雨水によってマグネシウム成分が溶け出し、表層の根から吸収されることを期待するものですが、これはあくまで緊急的な対策です。根本的な土壌改良にはならず、効果も限定的です。
結論として、苦土石灰は作付け前の「元肥」の段階で、土づくりとして施用するものと理解し、生育途中での使用は避けるのが原則です。
苦土石灰の追肥は効果があるのか

「追肥」とは、作物の生育途中に不足する養分を補うために施用する肥料のことです。この目的で苦土石灰を使用することは、効果の面からも不適切と言えます。
追肥に求められる最も重要な性質は「速効性」です。作物が「今、この栄養素が欲しい」というタイミングで、すぐに吸収できる形で供給する必要があります。
しかし、これまで説明してきた通り、苦土石灰は水に溶けにくく、土壌中でゆっくりと反応する「緩効性」の資材です。そのため、追肥として施用しても、作物が栄養を必要としている時期に間に合いません。
- 効果が遅い:緩効性のため、速効性が求められる追肥には不向きです。
- 根を傷めるリスク:土と混ぜ込む必要があるため、生育中の作物の根を傷つける危険があります。
カルシウムやマグネシウムの追肥が必要な場合は、硫酸マグネシウム(硫マグ)や塩化カルシウムなど、水に溶けやすく速効性のある専用の液肥や葉面散布剤を使用するのが正しい方法です。苦土石灰は、あくまで作付け前の土づくり資材としての役割に徹するようにしましょう。
苦土石灰が必要ない野菜一覧

多くの野菜は弱酸性の土壌を好みますが、中には酸性の土壌を好む、あるいはアルカリ性を嫌う作物も存在します。これらの作物に苦土石灰を施用すると、生育不良や病気の原因となるため、注意が必要です。
代表的な作物としては、以下のものが挙げられます。
作物名 | 適正pH(目安) | 苦土石灰を避けるべき理由 |
---|---|---|
ジャガイモ | pH 5.0 – 6.0 | 土壌がアルカリ性に傾くと、「そうか病」という病気が発生しやすくなります。イモの表面がかさぶた状になり、商品価値が著しく低下します。 |
サツマイモ | pH 5.5 – 6.5 | 酸性に強く、多少酸性寄りでも問題なく育ちます。アルカリ性に傾くと、つるばかりが茂ってイモが太りにくくなる「つるぼけ」の原因になることがあります。 |
ブルーベリー | pH 4.3 – 5.5 | 代表的な酸性土壌を好む作物です。アルカリ性に傾くと鉄欠乏を起こし、葉が黄色くなって生育が著しく悪化します。むしろピートモスなどで土を酸性に調整する必要があります。 |
茶、ツツジ、シャクナゲなど | pH 4.5 – 5.5 | ブルーベリーと同様に、酸性土壌を好む植物です。 |
特にジャガイモの「そうか病」は、一度発生すると土壌中に病原菌が残り、連作障害の原因にもなります。ジャガイモを栽培する圃場では、石灰の施用は特に慎重に行う必要があります。
栽培する作物の品目特性をよく理解し、一律に苦土石灰を施用するのではなく、作物に合わせた土づくりを実践することが重要です。
プランター栽培での注意点

プロ農家向けの解説が中心ですが、家庭菜園などでプランター栽培を行う場合の注意点にも触れておきます。基本的な考え方は同じですが、規模が小さい分、より繊細な管理が求められます。
市販の培養土は調整済みの場合が多い
まず知っておくべきことは、ホームセンターなどで販売されている「野菜用培養土」の多くは、あらかじめpHが適切に調整されているという点です。そのため、新しい培養土を使う場合は、基本的に苦土石灰を追加する必要はありません。袋の表示を確認し、「pH調整済み」と書かれているかチェックしましょう。
古い土を再利用する場合
古い土を再利用(リサイクル)する場合は、土壌の酸度測定が必須です。長期間の栽培や雨ざらしによって土が酸性化している可能性が高いため、測定結果に応じて苦土石灰を施用します。
プランターの土は量が限られているため、施用量はごくわずかです。入れすぎないように細心の注意を払ってください。
標準的な65cmプランター(土量約12L)の場合、土のpHを1.0上げるのに必要な苦土石灰は約24g(大さじ1杯半〜2杯程度)が目安です。計量スプーンなどを使って正確に測り、土とよく混ぜ合わせましょう。
大規模な圃場と同様に、施用後は1〜2週間なじませてから植え付けを行うのが理想です。
収量UPを目指す苦土石灰の撒き方まとめ

この記事で解説した、収量と品質の向上に繋がる苦土石灰の正しい使い方をまとめました。土づくりの基本として、ぜひ実践してください。
- 苦土石灰の主な効果は酸性土壌の中和と栄養補給
- カルシウムは細胞壁を強化しマグネシウムは光合成を助ける
- 散布前には必ず土壌診断でpHを測定する
- 施用量は土質によって異なるため目安を確認する
- 作付けの2〜3週間前に散布するのが基本のタイミング
- 圃場全体に均一に散布し深さ20〜30cmまでよく混和する
- 苦土石灰と堆肥や窒素肥料の同時施用は避ける
- アンモニアガスが発生し窒素成分が失われるため
- 施用順序は苦土石灰が先で堆肥は1週間以上あける
- 緩効性のため撒いてすぐに植え付けても効果は薄い
- 撒きすぎは土壌を強アルカリ性にし微量要素欠乏を招く
- 過剰な石灰は土を硬くし根張りを悪化させる
- 生育中の作物への後からの散布や追肥としての使用はNG
- ジャガイモやブルーベリーなど酸性土壌を好む作物には使用しない
- 市販の培養土はpH調整済みのものが多いため確認が必要

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